現在、長引く新型コロナウイルス感染症の影響、ウクライナで続く戦争、インフレの進行といった様々な世界的問題に見舞われています。そのような中、STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)スキルの不足の拡大により、世界経済がさらに弱体化するという懸念が生じています。
世界150か国以上に学会員を擁する英国工学技術学会(IET)など、複数の組織がこのような懸念を表明しています。
IETの報告によると、英国のSTEM分野だけで173,000人以上の労働者が不足していると推定されており、英国の経済再生を実現するには、労働者に対するSTEMスキル教育への投資が必要であると主張しています。「これは、雇用創出だけでなく、あらゆる規模の企業の安定した生産性や市場拡大にも関わることです」。
米国労働統計局は、2022年から2030年までの間に、STEMスキルを要する仕事の数がそれ以外の仕事よりも速いスピードで増加すると予測しています。さらに、全国スキル連合の調査によると、米国労働者の約3分の1が、STEM関連の求人で必須要件とされるデジタルスキルを欠いています。
STEMスキルの不足によって悪影響を受ける業界は今後ますます増加していく恐れがあります。日本では、国内最大の半導体製造業者が、投資ペースに後れを取らないために今後10年間で約35,000人の技術者を雇い入れる必要があると警告しています。
インドでは、デジタル化、自動化、テクノロジーベースのサービスの需要が高まっており、労働市場が急拡大しています。しかし、このような仕事では「より高度な技術が求められる」と、マッキンゼーの「デジタル・インディア」レポートが伝えています。組織による確保が難しいスキルとしては、創造性・独創性、批判的思考・分析、論理的思考・問題解決能力、リーダーシップ・社会的影響力、指導力などがあります。
新型コロナウイルスの感染拡大により、新たなテクノロジーが急速に成長し、今後、スキルの継続的なアップデート、もしくは全面的な再教育(リスキリング)が求められます。IETのレポートでは、「これからの労働者にとって、人材育成、生涯教育、キャリアの再構築が極めて重要になる」と述べられています。つまり、業界と政府は「将来的な仕事に向けた人材教育に注力することにより、仕事の性質の変化に適応していく」ことが求められます。
政府支援の教育プログラム
上述のように、STEMスキルの需要があることは明らかです。では、このSTEMスキルを求職者が身につけるにはどうすればよいでしょうか? まず、スキルアップやリスキリングについて調べる前に知っておきたいのは、STEM関連職種に転用可能なスキル、すなわちトランスファらブルスキルが皆様にはすでに備わっているかもしれないということです。例えば、コミュニケーション、問題解決能力、チームワーク、プロジェクトマネジメントといったスキルがこれに当たります。
次に、キャリアの目標を明確にする必要があります。どのような仕事を目指していますか? 業界は? これらに答えることで、必要な資格やスキルが明確になります。
英国政府のSkills for Lifeプラットフォームでは様々なトレーニングコースが用意されているため、まずはこれらに取り掛かるのも良い手です。ドイツでは、Activation and Placement Voucher制度により、求職者が新たなスキルを習得するためのトレーニング費用が補助されます。
このほか、英国における最近の新しい動きとして、技術研究所(IoT)の設立があります。IoTは、継続教育カレッジ、大学、現地の雇用主による連携機関であり、あらゆる年齢層の人々に向けて高品質のSTEM教育(主にレベル4または5)を提供しています。
報酬を伴う学習
見習い制度(アプレンティシップ)やインターンは新たなSTEM人材を育成する手段の1つであり、新しいスキルを習得しながら職場体験を積み、報酬を得る機会を提供するものです。英国におけるSTEMスキルの危機的状況に対処するための取り組みで需要が拡大したことにより、学生が医師の見習い学位制度を利用することも可能になりました。英国政府のウェブサイトでは、新しい見習い制度検索ツールが提供されています。
学位を取得せずにSTEMのキャリアパスを目指すこともできます。ただし、エンジニアリングのような一部の分野では正式な教育を受けることが求められます。そのため、大学に戻り適切な学位を取得するための準備が必要になる場合があります。
どの国にも、STEM関連の課程を受講できる大学が複数あります。入学要件を満たしていない成人志願者の場合は、入学要件の免除を受けられる可能性があります。代替の入学試験を手配してもらえる場合があるため、大学に直接問い合わせてみる必要があるでしょう。
成績が基準を満たしていない場合は、必要な資格を得る試験の受験や再受験について調べる必要があります。地元の大学での受験や、オンラインの学習コースを通じた受験など、複数の手段があります。
140か国に学会員を擁する英国機械学会で職能開発・教育政策アドバイザーを務めるLydia Amarquaye氏は、次のように述べています。 「STEMは過小評価されているため、STEMの認識とキャリア開発の可能性を向上させる取り組みが必要です」。
その一方で、彼女は、需要のあるSTEMスキルを習得することで、スキルアップや再教育を試みる人々が「チャンスを拡大」できるという考えに明確に同意しています。
世界中でSTEMスキルが求められていることは間違いありません。英国政府や他国が進めている取り組みは、スキル不足の解消に向けて効果を現し始めています。求職者にとって、STEMトレーニングを受ける機会を得られることは絶好のチャンスです。
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