お問い合わせ
  • België
  • Deutschland
  • France
  • 日本
  • Nederland
  • UAE
  • United Kingdom
  • United States
日本
日本語

STEMプロフェッショナルの活用で景気後退を乗り切る

景気後退により雇用が不安定な状況下でも、STEMスキルを身につけている従業員は、そうでない従業員よりも雇用が安定する可能性が高くなります。

Male wind turbine design engineer looking at circuit board while computer screen shows performance metrics of wind turbines

現在、メディアやソーシャルメディアでは、世界中の国々が直面している経済成長の伸び悩みやインフレの進行、政治的不安定が引き起こす様々な影響や今後起こり得る不況など、経済危機を予測する見出しに溢れています。

この背景には、2022年10月に開催された国連貿易開発会議で、2008年の金融危機やパンデミック時よりも深刻な景気後退の瀬戸際に世界が直面していると国連が警告した事実があることも無視できません。

 

 

慢性的なSTEMスキル不足

しかし、世界経済に暗雲が立ち込めている状況においても、STEM(科学・テクノロジー・エンジニアリング・数学)スキルや知識を持つ人材の雇用の見通しは、そうでない労働者よりも明るいようです。これは、STEM分野でビジネスを単会する世界中の雇用主が、慢性的なスキル不足に陥っているためです。

例えば、2022年に実施された調査によると、UAE(アラブ首長国連邦)のテクノロジーまたはエンジニアリング企業の93%が過去12か月間で人材確保における困難を経験しており、54%がスキル不足を経験しています。

relocateglobal.comによると、シンガポール、オーストラリア、インド、インドネシア、日本、韓国ではどの業界においても、ITスキルが必要とされる労働者の数が今後2年間で5倍になると予想されています。インドだけに絞っても、2022年上旬までの1年間でIT分野の求人数が129,000件と2倍以上に増加しました。

上記の国(およびニュージーランド)を対象とした別の調査によると、技術開発で後れを取らないようにするには、今後1年間で推定8,600万人の労働者にITスキルのトレーニングを実施する必要があることが明らかになりました。

さらに、英国雇用・技能委員会は、2025年までにITスキルを要する300万人の新規雇用を創出して埋める必要があると予測されている一方で、埋めることが困難なSTEM関連の求人は国内の43%に上るという見通しを発表しています。


STEM雇用の前向きな見通し

興味深いことに、ニューヨーク州立大学オルバニー校による詳細な調査によると、STEMスキルと知識を備えた米国の従業員は、新型コロナウイルス感染症に起因する景気後退と2008年の金融危機のどちらでも、雇用の維持と獲得において極めて有利でした。国ごとに経済もそれぞれ異なるものの、欧州、オーストラリア、アジアといった他の先進経済でも同様の傾向が見られると考えるのが妥当でしょう。

2020年におけるパンデミック発生後、米国ではSTEM労働者の雇用水準が新型コロナウイルス感染拡大前のピーク時と比較して5%減少した一方で、非STEM労働者の雇用水準は14%減少しました。その後、2021年後半までにSTEM労働者の雇用水準は完全に回復しましたが、小売やホスピタリティといった他の分野の雇用水準は依然として低いままです。

欧州では、新型コロナウイルス感染症による景気後退が進んだ2020年においても、R&Dへの公共支出がOECD加盟国全体で15.2%増加しました。このようなR&D発展のグローバルホットスポットについては、以下の記事(英語)内でご紹介しているSThreeのインタラクティブマップ(英語)をご参照ください。

同様に、「景気後退下におけるSTEM雇用の回復力:新型コロナウイルス感染症パンデミックでの証明」の4人の著者によると、2008年の景気後退では米国で非STEM労働者の雇用が7%減少した一方で、STEM分野での雇用は4%減に留まり、2倍の速度で回復しました。

 


驚くべき発見

米国の調査を主導したJerry Marschke教授は、次のように述べています。「特定のSTEM分野がそれ以外の分野よりも大きく有利であるという確かな証拠があるわけではありませんが、総合的に見て、STEM労働者は非STEM労働者よりも新型コロナウイルス感染症による景気後退を順調に乗り切っており、雇用確保において有利な状況にあったことは間違いありません」。 

意外にも、一般にはSTEMとみなされていない業界であっても、業務でSTEM関連知識を用いる従業員は、STEM知識を必要としない従業員よりも有利な傾向がありました。米国で1億2,400万人に上る「非STEM」労働者のうち、7,200万人が業務でSTEMスキルや知識を用いていると推定されます。

「このことから、STEMの知識と雇用が関係していることは明らかです。役職や業界にかかわらず、STEM知識を用いている労働者は雇用を維持しやすくなります」。

経済の混乱の中でもSTEM業界と非STEM業界の両方の従業員にとってSTEMスキルの習得が雇用の安定で有利になる理由について、研究者らは以下の通り複数の仮説を立てています。

1.STEMスキルの価値

まず第一に、STEMスキルを重視している企業は、苦境下においてもすぐに雇用を切らず、「余剰な労働力を抱えて蓄える」傾向があります。例えば、景気後退下では研究開発(R&D)に携わる労働者が特に有利であり、新型コロナウイルス感染症の最中でもR&D関連の支出は比較的堅調に推移しています。

この事実についてMarschke教授は、多くの企業でR&Dが経済成長の重要な要素であり、長期的な成功に不可欠であると考えられていることから、知識の流出を防ぎ、競争力を維持するためにR&D労働者を確保しようとした結果の表れだろうと指摘しています。今後R&D労働者の育成への投資がますます強化されることが見込まれます。

また、STEM関連業務には、多くのルーチンワークを伴う非STEM職と比較して、非定型の認知的分析スキルが関わる可能性が高くなります。研究者による調査では、歴史的に見て、ルーチン業務を伴う職では雇用削減が起こりやすいという結果が出ています。これは、STEMスキルを用いている労働者が雇用で有利となる現象を裏付けるものかもしれません。

通常、STEMプロフェッショナルは大企業に雇用され、専門的、科学的、技術的なサービスや情報関連の分野に携わっており、景気後退下では手厚い雇用保護の対象となる可能性が高くなります。さらに、ウェットラボ(特定の装置や薬品を用いて行うため研究室でしかできない研究)に深く関わっている方を除き、多くのSTEMプロフェッショナルが在宅で業務を行えます。これは、新しいハイブリッドな働き方にうまく適合します。

また、Marschke教授はSTEMプロフェッショナルはより高度な教育を受けている傾向があると説明しています。「10人中約7人が何らかの学位を取得しており、景気後退下では大卒者がより優れた成果を残すことが以前から知られています。ただし、私たちの調査によると、学位を取得していなくてもSTEMの知識を用いる労働者はSTEMの知識を持たない労働者よりも雇用を維持できる可能性が25.1%高くなっています」。

 

2STEMの力

研究共著者のHolden Diethorn氏は次のように述べています。「私たちの調査結果は、STEMスキルを身につけることで景気後退下の雇用保護が広がることを示唆しています」。

これは、大学教育を経験していない労働者にも当てはまるため、スキルを要する技術労働者の職に就くための準備では、学外におけるSTEMトレーニングの重要性が強調されるとDiethorn氏は主張しています。

まとめると、Marschke教授は次のように述べています。「景気後退はどれも固有であり、世界経済に与える影響も異なることから、私たちの調査結果が今後起こりうる出来事を正確に予測していると捉えるべきではありません。しかし、別の景気後退が発生した場合には、過去にそうであったように、すべてのSTEM労働者が非STEM労働者よりも全体的に有利となる可能性が極めて高いと確信しています」 。

「景気後退から回復するにつれて、新技術の出現やデータの利用増大をすべて考慮すると、STEM労働者の需要がこれまで以上に高まるとともに、すでにSTEM職に就いている労働者の雇用が比較的高い水準で安定することが十分に予想されます」 。

研究開発のホットスポットを見る(英語コンテンツ)

「STEMの力シリーズ:レジリエンスの高いスキル」の記事をさらに読む

マイクロクレデンシャルは未来の仕事と学習の手段になり得るか?
27 2月 2023

マイクロクレデンシャルは未来の仕事と学習の手段になり得るか?

マイクロクレデンシャルが労働者と組織の双方にとって有用なツールである理由について解説します。

正社員以外の働き方(契約労働)は拡大し続けるのか?
07 2月 2023

正社員以外の働き方(契約労働)は拡大し続けるのか?

SThreeの調査によると、コントラクター(契約社員や派遣社員、業務委託などコントラクトベースで働く労働者)の人気が高まっています。しかし、今すぐ臨時職員が正社員の数を上回るのでしょうか? STEMプロフェッショナルと雇用主にとってこれがどのような意味を持つのかを考察します。

困難下における柔軟な人員確保のためのソリューション
26 1月 2023

困難下における柔軟な人員確保のためのソリューション

その時々で必要とされるSTEMスキルを持つ人員をプロジェクトに素早く投入したいという考える企業が増えています。

景気後退下においてコントラクター(契約労働者)が成功を収めるには
24 1月 2023

景気後退下においてコントラクター(契約労働者)が成功を収めるには

コントラクトベースでの仕事が一般的になるにつれて、新世代のSTEMプロフェッショナルの正規雇用離れが見られます。またこうしたSTEMプロフェッショナルに対する需要は、現在の厳しい経済状況下においても高まっています。

STEMの再教育が求職者の「チャンスを拡大」する
19 1月 2023

STEMの再教育が求職者の「チャンスを拡大」する

新たなテクノロジーの急成長により、これからの仕事では新たなスキルが求められます。